二階さちえの「窓のコラム」

「窓」とは?二階さんならではの視点でさまざまなジャンルから「窓」を語ります。

二階さちえ(ふたはしさちえ)プロフィール
記者・編集者。(同)青空編集事務所代表。住宅・建築・まちづくりをテーマにウェブサイトや雑誌、書籍向け企画取材執筆・編集を行う。板硝子協会エコガラスHP取材記者、千葉市まちづくり冊子『やさしい流れに会いにゆく』取材執筆・編集・デザイン、神奈川大学建築学科発行誌『RAKU』特集ページ編集統括。近著に『世界5000年の名建築』『東京老舗の名建築』(共にエクスナレッジ刊)、『中銀カプセルスタイル』(草思社刊)取材執筆。 千葉大学大学院修士課程修了、工学修士  神奈川大学建築学部非常勤講師

二階さん取材記事⇒エコガラス事例紹介

飾り気ゼロ? 木の格子と雨戸で守られてきた日本の窓

2026-05-20
[窓]
注目NEW
江戸時代に薬問屋を営んでいた宇陀市の住宅                    

前回のコラムでは、ヨーロッパの窓を飾りつつ守る鉄の芸術・ロートアイアンの歴史や魅力、防犯も兼ねたその存在感をお伝えしました。
 
 今回は私たちの国・日本の窓に目を向け、装飾や防犯のスタンスを探ります。
 
 日本では一部の門扉や玄関ポスト周辺で趣味的な装飾を目にします。けれどヨーロッパのロートアイアンのように窓や開口部と一体化しデザイン性と防犯機能を兼ね備えたものはほとんど見かけません。
 戸建住宅一階のキッチンや浴室の窓、あるいは集合住宅の共用廊下に面する居室の開口には、絵に描いたような「防犯! 」の思いがいっぱいのシンプルな面格子がつけられています。
個人住宅のヨーロッパ風門扉
 もちろん、これには理由があるのでしょう。日本の近現代都市住宅のルーツは江戸期の武家屋敷や商家、長屋とされています。西欧世界の住まいと相当に違う事情と要素があるのは当然です。
 
 まずは材料面から。
 
 鉄という素材そのものは、国内でも武士の刀や鎧兜、寺社や邸宅を建てる際の大工道具や釘類、農民が田畑を耕す鍬や鎌といった農機具・民具づくりに長く使われてきました。
 
 しかし住宅向けとなると話は変わってきます。
 日本の住まいは現代でも木造が主流で、石造の歴史を持つヨーロッパの家と比べて骨格から格段に軽い”造り。
 ロートアイアンは無垢に近い鉄でつくるので、中身が詰まってずっしり重く、木造住宅の設備やいわんや装飾にするには、強度面からいっても使いづらそうです。
 
シンプルだがデザインされた面格子
さらに日本には格子”の文化が存在します。とくに商家や京町家では細長い木のルーバーを窓の正面に打ち付けて防犯しつつ、採光や通風を得てきました。装飾性がなく実用一辺倒? ともいえますが、商家としては当然であり、今では伝統的な美しい街並みを形づくる欠かせない要素のひとつに。
 現代日本の窓につく面格子も、材料はアルミや軽金属に置き換わったものの、木造の壁や窓枠に負担をかけない軽さと強さが身上なのは変わらず、装飾性の低さも一緒に受け継がれているようです。
江戸期の古民家を生かした敦賀市の資料館。格子が美しい

鉄が希少だった事情も関わっているでしょう。
 日本は鉄鉱石の産出がなく、近代以前まで鉄器を製造するには『たたら製鉄』という、砂鉄を使った手のかかる方法をとっていました。武器や農機具など硬さと強さが必須の道具はともかく、庶民の家を飾るには高級な材料だったに違いありません。
 
 窓のありかたや使い方も、日本とヨーロッパでは違っています。
 西欧の窓のルーツは石の壁に穴をあけて内部に光や風を通したもの”です。一方、伝統的な日本建築はご存知の通りに柱と梁で骨組みをつくり、その間にふすまや障子を立てて室内を囲いました。壁はほとんどなく、柱・梁と建具とで出来上がっていたのです。
 窓の語源は『間戸』との説もあります。
 
 柱の間に入れた建具は、動かせるのが基本でした。敷居を滑らせて位置を変え、部屋の隅に引き込んで見えないようにし、ときには大々的に取り払って大空間を出現させるなど、内部の仕切りを自由に変えて部屋を使い、人の動線を操作したのです。
 日本映画やドラマの伝統的な結婚式や法事の場面で、続き間の襖を取り払って大広間をしつらえているシーンを見ることがありますね。まさにあれです。
 

   襖や板戸などの建具で仕切られた座敷が連なる伝統的な和の住宅
 家の開口や窓は自由に動かせて細かい調整がきき、人も出入りできるもの。日頃からこう扱っていれば「固くて重い鉄の飾りをがっしりつけて、ついでに防犯もしちゃえ」とはなかなか考えないのではないでしょうか。
 
 防犯意識の強度にも日本と西洋には差があります。江戸期の住宅事情をもう一度見てみましょう。
 
 一定以上の位を持つ武士の屋敷は周囲に長い塀をめぐらせ、外からは容易に人を出入りさせないのが常識でした。言い換えれば、塀の内側にある家の備えは考えなくてよかったのです。

藩政時代の姿がよく残る金沢市の長町武家屋敷跡

 町人が住むエリアでは、街区の要所要所に木戸”がありました。夕方には閉め切り、朝まで木戸番が見張って人の出入りをチェックし、まちの安全を確保したのです。
 当時もっとも恐れられていた犯罪は放火と泥棒で、作家・池波正太郎の傑作『鬼平犯科帳』で主人公長谷川平蔵が率いる組織の名前も『火付盗賊改(ひつけとうぞくあらため』。人口百万人を超え世界屈指の過密都市だった江戸はほとんどの建物が木造で、一度火が出ればたちまち燃えひろがってしまいます。明暦の大火はその最たるもの。
 惨事を防ぎ、夜のまちに怪しい者が入り込んで悪さをしないよう、目を光らせる木戸番制度が発達したのでした。
 
 安普請の長屋で暮らす庶民たちも、出入口の襖につっかい棒をする程度でそれなりに安心して眠れたというわけです。さらに江戸期が四百年も戦のない平和な時代だったのも、個別の防犯意識が根付きづらかった理由かもしれません。
 
 さらに日本には『雨戸』がありました。
 
 江戸から明治維新を経て昭和に至るまで、縁側はもちろん腰窓タイプの開口部でも、多くの住宅では障子やガラスの外側に雨戸をつけていました。
 
 もともと雨が多く台風もやってくる気候風土への備えはもちろん、木の窓枠に単板ガラスをはめこんだ日本の窓は圧倒的に断熱性能が低く、隙間風だってあたりまえ。冬の寒さをしのぐためにも夕方になれば雨戸を引き、吹き降りや台風なら昼間でも家中の窓に雨戸をたてまわして守ったのです。
 防犯を兼ねていたのも当然ですね。
昔ながらの木製雨戸。縁側の隅で雨戸の向きを直角に変える『雨戸廻し(まわし)』が取り入れられている
 住宅デザインが多様化・洋風化するなかで、雨戸は徐々に減っていきます。代わりにシャッターをつけたり、雨戸そのものがない家も増えました。
 
 いよいよ窓を装飾する時代の到来か? と言いたくなりますが、その割にロートアイアン的な開口部は今も見かけない気が… 個人的には、家を持つあるいは持とうとする住まい手側のコスト意識が反映されている気がしています。
 次回は「家づくりのコスト意識と窓」についてお話しましょう。 
 
 
 
参考文献:
小泉和子監修・家具道具室内史学会『日本の住まいの歴史』/ゆまに書房
小沢朝江・水沼淑子『日本住居史』/吉川弘文館
増田達男『金沢市既成市街地の近代戸建住宅における正面意匠の変遷』/日本建築学会北陸支部研究報告集 第47号 2004年7月
平井 聖『近代都市住宅における雨戸の変遷と近世における雨戸の発生から引き通し雨戸の成立まで』学苑・近代文化研究所紀要 No.875 1〜33 (2013・9)
Fe:FRAME『平安時代の鉄製品とは? 古代の技術と現代への影響を探る』ALL PRODUCt JOURNAL
中江克己『江戸の盗賊を取り締まる⁉︎ 地味に長屋を支えた「番太郎」/「歴史人」こぼれ話
 

窓を飾る“鉄の芸術” ロートアイアン

2026-03-04
[窓]
注目NEW
ポール・ジャック博士の家 ©️ Dguendel
    ヨーロッパを旅行したり、映画やテレビ、動画などで街並みを見るとき、窓を飾る金属の装飾を目にすることがありますね。
 植物をモチーフとする優美な曲線や美しい幾何学模様を描くこれらは“ロートアイアン(Wrought Iron)”と呼ばれます。
パリの地下鉄入口                    ©️ Als33120


ロートアイアンは手仕事が原則で、熱して柔らかくした鉄を職人がハンマーで打ち、自由自在にかたちづくっていきます。
 住宅や建築のファサードをデザイン・装飾し、アートとしての評価も受け、さらには開口部の防犯をも担うものです。
 
日本語では鍛鉄(たんてつ)あるいは錬鉄(れんてつ)と表現され、近年ではより広い普及をめざし、アルミ素材を使ったりデザインカタログがつくられたりもしています。
 
 けれどここでは、純度の高い鉄からプロが打ち出す一品もの=本来のロートアイアンと西欧世界の窓・開口部の関係をお話ししましょう。
 
 この“鉄の芸術”のルーツは中世ヨーロッパに遡ります。10世紀以前から数百年にわたって絶対的な権力を誇ったキリスト教の教会建築が、深く関わっているのです。
ノートル・ダム大聖堂 ©️ Pline
ノートル・ダム大聖堂の内部 ©️ Cezary Piwowarski
パリのノートル・ダム大聖堂は2019年の火事で消失、近年修復なって、日本でもつとに有名になりました。この教会に代表されるのが“ゴシック様式の教会建築”です。
 
 12世紀頃に登場するゴシック教会はヨーロッパの伝統建築を代表する存在で、今も多くの街や村のシンボルとして君臨しています。天をつく尖塔や華やかなステンドグラスに誰もが眼を奪われ、もちろん観光スポットとしても一級品。
 
 石を積んで造ったように見えますが、実はさまざまな部分を鉄で補強することで、その威容が支えられている建築です
 

サント・シャペル礼拝堂の内部 ©️ CC BY-SA 3.0
同じくパリに建つ礼拝堂『サント・シャペル』は“ゴシックの宝石箱”と称えられる美しさ。細い鉄材を使った鳥籠のように繊細な構造におびただしいステンドグラスをはめ込み、内部は幻想的な光で満ちています。
 石の皮をかぶった鉄の建築でなければ、実現できないデザインでしょう。
バチカンのサン・ピエトロ大聖堂内部。ルネッサンス期~バロック期教会建築の粋を集めている 
         

続くルネッサンスやバロック時代の教会ではそれがエスカレートし、内装から開口部まで鉄やガラスを使いまくって、この世のものとは思えぬ光輝く空間が創出されます。
 “これぞ神の国”たる圧倒的かつ華麗な演出で民衆の心をつかみ、熱狂させて支配したのでした。
 
 こうして鉄は欧州の建築文化に浸透していきます。さらに19世紀末に起こったふたつの出来事でロートアイアンの存在が確立しました。
 芸術運動『アーツ&クラフツ』と『アール・ヌーヴォー』です。
ウィリアム・モリスによるアーツ&クラフツのカーペットデザイン ©️ PKM
 アーツ&クラフツは、産業革命にともなう急速な工業化に疑問と危機感を持った英国人ウィリアム・モリスらが起こした運動です。
 当時、社会にあふれた粗悪な工業製品を憂い「伝統的な職人の手仕事と人間らしさを大切にしよう」と、植物をモチーフとする有機的なテキスタイルや温かみある家具、アクセサリーなどを職人たちと共に制作・販売していきました。
 その柔らかな意匠は『ウィリアム・モリスデザイン』として、現在も生地・カーテン・壁紙など多くのファブリックで愛されています。
 
 そしてアール・ヌーヴォーは、アーツ&クラフツのこの思想をよりどころに花ひらいた19世紀末の特異な芸術運動。
 
 とりわけ産業革命で豊かになった都市住民の住まいや、彼らの仕事に付随する店舗や事務所などを個性的にデザインした“アール・ヌーヴォー建築”が有名です。
フランス・ナンシーの商工会議所ファサード ©️ Berthold Werner
パリの住宅 ©️ VVVCFFrance
ナンシーの美術館 ©️ dalbera
 アール・ヌーヴォー建築家たちは鉄とガラスを存分に使い、街路に並ぶ住宅・店舗・オフィスのファサードから窓やバルコニーの手すり、階段にいたるまで、自由に伸びる植物の蔓や花々を思わせる優美な曲線や円、複雑な幾何学模様で徹底的に装飾しました。
 
 ロートアイアンならではの自在さが際立つそのデザインは、ときに退廃感すら感じさせる妖しい美しさに満ちています。
 公共性の高い教会ではなく個人住宅や民間建築が舞台だったことで、施主の思いをそのまま表現しダイナミックな奔放さを生み出し得たのもアール・ヌーヴォー建築の特徴。
 
 西欧のロートアイアン文化はここで日常に根づいたといえるでしょう。現代までそれは引き継がれ、街並みや都市風景をも形成しています。
 
 さらに開口部では“美しくて効果ある防犯設備”として窓格子や門扉などに採用され、人々を守っています。ヨーロッパは窓を破っての窃盗や強盗犯罪が多く、開口部の防犯意識は日本と比べてとても高いのです。
 

…ここでわたしたちの国の建築文化やデザインを振り返ると、疑問が湧いてきませんか。ファサードも窓も、装飾的な要素がなんだかとても少ないような…?
 
 次回はこの不思議について、考えていきましょう。
 
パリのアール・ヌーヴォー建築を代表するアパルトマン『カステル・ベランジェ』の見事なロートアイアン

参考文献:
西川雅嗣編『建築史 西洋の建築』京都造形芸術大学
橋本文隆『アール・ヌーヴォー建築』河出書房新社
加藤耕一『西洋建築史に見る鉄のテクトニクス』10+1ウェブサイト
ユーロスタイル『ロートアイアンの歴史と文化』ユーロスタイルウェブサイト
レッキーメタルオーナメントジャパン『ロートアイアン(鍛鉄)とは』レッキーメタルオーナメントジャパンウェブサイト

光で、景色で、心と体に働きかける窓

2025-12-23
[窓]
注目
©️ Charles Boris Manez
風景を眺め、新鮮な空気を取り入れ、日差しで室内を明るくする… 窓は健康で快適な暮らしの必需品です。
 それだけではありません。わたしたちの“心”に窓が関わる場面もまた、少なくないといいます。
 
 住まいで、仕事場で、人の気持ちにひそかに? 働きかける窓については多くの研究がなされ、現在も続けられています。
 そのいくつかをちょっぴり、のぞいてみましょう。
自然光が美しく射し込むリビング
まずは窓が室内に取り入れる自然の光のお話から。
 
 リビングの大きな窓は“良い気分”の源泉のひとつです。開放感やお部屋の広がり感のほか、自然光がたっぷり入ることで体にも心にもいいことがたくさんあります。
 古代ローマの人々も自然光を大事にしました。中庭を囲んで部屋を並べ、それぞれの窓から光を取り込んだ住宅の遺跡がいくつも残っています。
 
 光と人の心身の関連でよく知られているのが“体内時計の調整”でしょう。
 ホルモンバランスに関係している生活リズム『サーカディアンリズム』が“明と暗のサイクル”に影響されるからです。
 
 自然光で明るい昼間は交感神経が優位になり、人は活発に動き回る。日が落ちて暗くなれば今度は副交感神経が優位になってゆっくりしたくなり、やがて眠りにつく…といった具合です。
 自然のサイクルに素直に従うこんな暮らし方こそ、健康の秘訣かもしれませんね。
昼間の強い自然光は心にも体にも元気をくれる


このサイクルが乱れると眠気や頭痛、食欲不振などさまざまな不調が現れてきます。
 さらに昼の力強い光を浴びる時間が少ないと“幸せホルモン”の別名をもつ脳内神経物質『セロトニン』の分泌が減って、落ち込みや不安が増大します。日差しの弱くなる冬が長い北欧に多く見られる『冬季鬱』もこれが一因となっているそう。
 
 日中、ある程度の時間をリビングなど決まった部屋で過ごす方は、窓からの自然光をいかに浴びるかを少し意識してみるといいかもしれません。
 大きな窓があればその活用はもちろん、ほどほどのサイズであっても窓から1mくらいの位置に居ると、自然光がサーカディアンリズムをよく調整してくれる、との見方もあります。
 
 最近は自然に近い光の照明器具も開発されていますが、まずは今ある窓を十二分に活用したいですね。
 
デザインされた3つの窓があるリビング
室内の開放感と窓の関係について、窓の大きさではなく配置に着目した調査実験があります。
 
 「部屋のどこに窓があるかで広さが違ってくる」。言い換えれば、どの視点から窓が目に入るかで空間の開放感が違ってくるというのです。
 
 イメージしてみましょう。扉を開けてあなたは室内に入ります。大きさが同じ窓が①正面の壁にある②左右の壁にある③天窓になっている としたら、もっとも開放感を感じる部屋はどれだと思いますか?
 
 実験では①②③の順で開放感が大きいとの結果が出ました。
 一見、当たり前のような気もしますが、ここに表されているのは“窓が視点の先にあることの効果”。広さが同じでも、人の視点からまっすぐの位置に窓がある部屋は開放感がより感じられるというのです。
 
 サイズはほどほどでも正面にある窓は、視点から外れた大きめの窓よりも部屋の広さを演出してくれる。そう言い換えることもできます。
 
 同様に青い空や流れる雲、夜になれば月や星も見えて開放感いっぱいに思える天窓も、視線の先になりにくいことで、ここでは第3位に甘んじました。
 ただし自然光を室内に取り込む面では、天窓が圧倒的です。その力は壁にある窓のなんと3倍! 部屋の明るさに大きく貢献してくれます。

ワークスペースを設えた横長の窓辺。仕事もはかどりそう? 


 現実には、窓の位置の変更は自宅の新築や大きな改修を計画中の人以外、なかなか難しいですよね。
 例えば室内の模様替えなど家具の配置を変える機会に、お気に入りの椅子やソファ、書き物などでよく使うテーブルを窓の近くに置き直してみたり、窓の前でなんとなく視線を遮っていそうなモノを、ちょっと整理してみてはどうでしょう。
 小さいけれど、楽しい試みになりそうです。
みずみずしい緑の景色が広がる平屋の窓
窓から見える景色と人の心に関する研究も複数あります。
 
 ある研究では、景色を構成する要素を空/地面/建物壁面/建物開口部/緑 の5つに分けました。これらの景色が目に入る住宅の窓が、住む人にどう働きかけているのか…気になるところです。
 
 一戸建か集合住宅か、あるいはマンションの高層・中層階といった住宅タイプによっても変わります。
 同じような近隣の建物でも、平屋の窓から見るのとタワマン高層階の窓からとでは見え方感じ方が違うのは、想像に難くありません。
 
さまざまなパラメーターで調査研究は進められています。研究成果をいくつかご紹介しましょう。
 
 前述した5つの要素のうち、戸建住宅でも集合住宅でも総合的に住まい手の評価が高いのはやはり“緑の量が多い景色”です。植栽や緑地の眺めが人の心に訴えかける力がうかがわれる結果ですね。

  緑のほかに“空が見えること”の影響力を示す興味深い研究結果もありました。
 前面にあるのが同じ建物でも、そこで空が目に入るかどうかで景色の印象は大きく変わってくるというのです。
 
 空が見えるとは“視界を遮られず目の前がひらけている状態”で、この要素があると景色の評価が高くなります。邪魔なものがなく目の前を気持ちよく見通せることは、やはり誰にとっても気分が良いものなのでしょう。
 
 窓の内側から空が見えるには、相対する建物からは適当な距離が必要です。つまり近隣の住宅や建築物と自分の住まいが“どの程度の間隔で建っているか”が映し出されるというわけです。
 密度の高い戸建住宅地はもちろん、集合住宅であっても住棟間隔を狭くして密に建てられている場合、同様のことが起こり得ます。住宅地の計画を行う専門家にとっても、重要な研究といえそうです。
吹き抜けのある住宅。1階の窓は隣家の壁面のみ、2階の窓では空が見えている
景色そのもの以外に、より遠くまで見えたり自然光が多く感じられるといった要素を備えた窓も、住宅のタイプに関わらず基本的に好評です。
 
 ただし高層の集合住宅などでは「あまり見たくないものも見えてしまう」と“見えすぎること”への嫌悪が見られることもあるといいます。眺望こそ最大の魅力と思えるタワーマンションも、少し掘り下げればコトはそう単純ではないのかもしれません。
 
 窓と心の関わりに関する研究や調査、論考はほかにもたくさんあります。『窓のコラム』ではこれからも折にふれて興味深いトピックをご紹介していきます。お楽しみに! 
東京都中野区の住宅から望む、緑と銭湯の煙突そして青い空。この景色をあなたはどう感じるでしょうか?
参考文献:
Rahmawati Hidayah、大井尚行、高橋浩伸:窓と視点の位置が室内開放感に及ぼす影響 模型実験による開放感に関する研究、日本建築学会大会学術講演梗概集 2011年8月
 
日野真理子、水田和孝、大井尚行:窓形状(縦長窓)が室内開放感に及ぼす影響 模型による開放感に関する実験研究、日本建築学会大会学術講演梗概集 2001年9月
 
荒野華織、松田啓汰、樺木隆則、大江由起、加藤未佳、佐野奈緒子、宗方淳、吉澤望:住宅の居間における窓を含む視環境の評価構造の解明、日本建築学会環境系論文集 第89巻 第818号 2024年4月
 
荒川望実、宗像淳:住宅タイプの違いから見る窓眺望が居住者の主観的幸福に与える影響、日本建築学会環境系論文集 第89巻 第822号 2024年8月  他 

ガラスのない窓

2025-09-19
[窓]
注目
©️ Charles Boris Manez
今回は“ガラスがはまっていない窓”のお話です。
 
 西欧世界の窓(window)の語源が“風の目”(wind-eye)である、との説はよく広く知られています。
 石の壁でできた建物に風や光を得ようと穴を開けたのが窓の始まりで、そこにガラスがはめられ私たちがよく知る“窓”になるまで、人は長い時間をかけてきました。
 
 世界最古といわれるガラス窓は、古代ローマ都市ポンペイの浴場跡で発見されました。
 分厚くて不透明なガラスがはまっていましたが、当時のガラスは大変な贅沢品。庶民の手に届くものではなかったといいます。薄く透明でなめらかな板ガラスの窓など想像するのも難しかったでしょう。
 
 小さな穴からわずかな光を取り込む暗い家に暮らしながら、人々は「窓にはめて光をたくさん通すナニカ」がどこかにないだろうか? あかりが採れる窓のある建物をつくりたいと願い続けました。そしてさまざまな材料を発見しては加工し、窓枠にはめていったのです。
 
カルタゴで発見された、セレナイトを利用した古代ローマの窓 ©️ rniosviajero
古代ローマの都市には鉱物を張った窓が見られます。日本語で透明石膏と呼ばれる鉱物『セレナイト』が使われている窓です。
 セレナイトの原石は水晶のような透明さを持ち、しかも柔らかくて加工しやすい性質を持っています。これを薄く削って枠にはめ、窓に仕上げました。
 
動物の皮も使われました。
 聖書をはじめ、無数の小説や歴史書に出てくる“羊皮紙”で、これはパピルスと並んで紀元前のエジプトが生み出した、文明最初期の紙のひとつです。
 羊や子牛の皮を原料とし、本や楽譜の筆記・記録に多く使われましたが、薄く半透明でよく光を通し、しかもとても丈夫だったので中世ヨーロッパの住宅の窓にも利用されました。
                         
ガッラ・プラキディア霊廟の大理石窓と壁画群      ©️ HIro-o

石を張った窓もあります。
 5世紀半ばのイタリア・ラヴェンナで建てられた霊廟『ガッラ・プラキディア』の天井に穿たれた窓がそのひとつ。大理石を薄く削って張ったもので、美しい琥珀色と天然のマーブル模様に目を奪われます。
 この小さな窓から差し込む外光は周囲の壁画をも照らし出し、室内は荘厳な雰囲気に。ガラスとは比較にならないほのかな光ではありますが、霊廟としてはむしろふさわしいかもしれません。

大阪市立自然史博物館に展示されている窓貝 ©️ Daderot
近代に至っても、ガラス以外の素材を使った窓は存在しました。“貝殻の窓”をご紹介しましょう。
 
 その名もズバリ『窓貝』という貝があります。
 牡蠣の一種で、かつて数多く生息していたフィリピンの地域名から『カピス貝』の名でも知られています。この貝の白い殻は加工によって半透明になり、四角く細断して枠に張ると窓をつくることができました。
 
 カピス貝はインドから中国南部、ボルネオ島、フィリピンの島々などアジアの海に広く分布しています。地元の人々は昔から住宅の窓で使っていました。日本と同じ引き戸タイプの窓も多かったようです。
 しかしこの窓が広く普及するようになったのは、15~16世紀の大航海時代。スペイン人やポルトガル人による大規模な植民地政策が行われた時期でした。
 
カピス貝で作られた窓 ©️ Bagoto
当時のヨーロッパではガラスは依然として高価なものだったので、カピス貝の窓を見たポルトガルの航海者は驚き感動したといいます。彼らはそれぞれの入植先で、自分たちの暮らす邸宅や教会の窓にもカピス貝を採用していきました。
 当時の代表的な植民貿易地だったインドのゴアやフィリピンのビガンでは今でも、コロニアル様式の住宅や古い教会建築などで立派な『カピスシェル・ウインドウ』を見ることができます。
フィリピンの伝統的な家『バハイ・クボ』では、カピス貝の引き戸が使われることも多かった ©️ SwarmCheng
 カピス貝は今でも、主に照明器具や装飾などのインテリア分野で多く使われています。しかしその美しさから乱獲され、場所によっては絶滅が心配される状況も。地球環境に対して私たちが持たねばならない高い意識が、こんなところでも求められています。
 
 “透明なものへの限りない憧れ”こそ、ガラス窓の発展を促す最大の推進力だったのでは…世界中にちらばる“ガラスのない窓の物語”は、そんなイメージを抱かせてくれますね。(了)

透明さへの限りない憧れ ガラスカーテンウォール建築

2025-06-03
[窓]
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千葉市中央図書館(千葉県千葉市)
 上から下までガラス張りのビルを見かけることは珍しくありません。都会的で洗練された外観に加え、豊富な窓に囲まれて室内も明るく気持ちよさそう、と思わせますね。
 
 建物の外皮をたくさんのガラスで覆う建築手法は『ガラスカーテンウォール』と呼ばれます。ビルの外側にカーテンをひくようにガラスで壁をつくる”のです。
 
 長い間、窓は枠にはまって壁に付いているものでした。しかし、透き通ったガラスの特質を活用して建物をより美しくデザインできたら… 人々のそんな想いが積み重なり、新たな技術や工夫が生み出されてきました。
 
 建築デザインでは、やはり建物の顔であるファサード(正面)は重要です。やぼったい窓枠をやめ、すらりとおしゃれなガラスだけで透明感を演出したい! そこで出たのが「建物と窓を分けよう。ゴツい躯体からガラスを解放して、外側に立てて支えればいいじゃないか」というアイディアです。
その手法をいくつかご紹介しましょう。
久光製薬ミュージアム(佐賀県鳥栖市)
①方立と無目で支える
方立(ほうだて)と無目(むめ)とは、表に出ずに窓ガラスを支える存在です。方立は室内側に並んで立つ薄い部材、無目は横方向に延びる部材で、これらにはめこんでガラスを自立させ、連ねることでガラスの建物外皮をつくるのです。
 
ガラスは主役として前に、自分たちはその後ろで建物躯体としっかりくっつく。もともと薄い方立は、ときには自身もガラス素材になって、より目立たなくなります。平滑で美しいガラスファサードのできあがりです。
神奈川大学30号館(神奈川県横浜市)
室内の灰色の丸柱に方立が溶接され、ガラスは柱に触れていない
②ガラス同士をボルトで留める
多くの方が一度は目にされたことがあるだろう、ガラスの隅に丸いポイントがついている方法です。
強化ガラスに直接穴を開けてボルトを通し、複数のガラスを組み合わせて大開口を構成します。低層の建物のほか高層のオフィスビルなどでも採用され、DPG(Dot Point Grazing)構法とも呼ばれます。

DPG方式の千葉市中央図書館のファサード
丸いポイントが4枚のガラスを組み合わせ、支持具によって内部の鉄骨柱に留めつけられている
③シール接着でフレームレスに
はめこみやボルト留めではなく、シリコン系素材の強力なシーリング剤でガラスと支持材を接着します。
ガラスは前面に出して並べ、その裏側をカーテンウォールのフレームに接着して支えるのです。高いフレームレス性となめらかさが得られるこの方法はSSG(Structural Sealant Glazing)構法とも呼ばれ、世界的に広く用いられています。


ガラスカーテンウォール建築の脇を歩いていて「もし、今ここで地震が起きたら?」と不安になったことはありませんか。大きな揺れでたくさんのガラスが割れ落ちてきたら、本当に怖いですよね。
 
 でも、大丈夫。ガラスカーテンウォールは実は地震に強い構法です。
 
 地震で揺さぶられると、建物は上下左右に変形を強いられます。窓枠がついている壁も当然歪み、部分的に接触することでガラスは割れてしまうのです。
 窓枠に納められた四角い窓が地震の力を受けてひし形などに変形する『層間変形(そうかんへんけい)』は、災害時の窓ガラス破壊のもっとも大きな原因です。
 とくに高いビルは、地震時の揺れ幅が大きくて大変です。東日本大震災時、新宿の高層ビル群がゆらゆらと揺れているさまをテレビでご覧になった方も少なくないでしょう。
 
 そんな中、一見脆く危なく見えるガラスカーテンウォールがなぜ、地震に強いのでしょうか。
 
 建物と窓が一体化している従来の建物と違い、カーテンウォールのガラスは躯体から独立して外側に張りめぐらされています。もちろん部分的に躯体にくっついてはいますが、それ以外はほぼガラス同士の組み合わせが基本。建物躯体の揺れが伝わりにくいのです。
 地震時のこの強さは、阪神淡路大震災や東日本大震災の被害調査でも検証されています。

久光製薬ミュージアム内部。建物を支える躯体の柱からガラスが独立している
 
ガラスカーテンウォール建築は、外部から見たファサードの魅力もさることながら、室内においても開放性やすぐれた採光性で貢献し、さらには周囲の風景を取り込んで内と外とをつなぎ、空間を拡張してくれます。
  透明性に対する人間の限りない憧れが生み出したともいえるガラスカーテンウォール。美しく透き通るだけでなく、その先に見えるものまで私たちに与えてくれる、洗練された窓ガラスの姿のひとつといえるでしょう。(了)
窓外の庭の風景と室内の美術作品が融合する。久光製薬ミュージアム
最初123
株式会社クリア
〒400-0867
山梨県甲府市青沼2丁目23-14
TEL.055-226-8887
FAX.055-298-6762
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