「窓」とは?二階さんならではの視点でさまざまなジャンルから「窓」を語ります。
二階さちえ(ふたはしさちえ)プロフィール
記者・編集者。(同)青空編集事務所代表。住宅・建築・まちづくりをテーマにウェブサイトや雑誌、書籍向け企画取材執筆・編集を行う。板硝子協会エコガラスHP取材記者、千葉市まちづくり冊子『やさしい流れに会いにゆく』取材執筆・編集・デザイン、神奈川大学建築学科発行誌『RAKU』特集ページ編集統括。近著に『世界5000年の名建築』『東京老舗の名建築』(共にエクスナレッジ刊)、『中銀カプセルスタイル』(草思社刊)取材執筆。千葉大学大学院修士課程修了、工学修士
二階さん取材記事⇒エコガラス事例紹介
ガラスのない窓
2025-09-19
[窓]
注目
今回は“ガラスがはまっていない窓”のお話です。
西欧世界の窓(window)の語源が“風の目”(wind-eye)である、との説はよく広く知られています。
石の壁でできた建物に風や光を得ようと穴を開けたのが窓の始まりで、そこにガラスがはめられ私たちがよく知る“窓”になるまで、人は長い時間をかけてきました。
世界最古といわれるガラス窓は、古代ローマ都市ポンペイの浴場跡で発見されました。
分厚くて不透明なガラスがはまっていましたが、当時のガラスは大変な贅沢品。庶民の手に届くものではなかったといいます。薄く透明でなめらかな板ガラスの窓など想像するのも難しかったでしょう。
小さな穴からわずかな光を取り込む暗い家に暮らしながら、人々は「窓にはめて光をたくさん通すナニカ」がどこかにないだろうか? あかりが採れる窓のある建物をつくりたいと願い続けました。そしてさまざまな材料を発見しては加工し、窓枠にはめていったのです。
動物の皮も使われました。
聖書をはじめ、無数の小説や歴史書に出てくる“羊皮紙”で、これはパピルスと並んで紀元前のエジプトが生み出した、文明最初期の紙のひとつです。
羊や子牛の皮を原料とし、本や楽譜の筆記・記録に多く使われましたが、薄く半透明でよく光を通し、しかもとても丈夫だったので中世ヨーロッパの住宅の窓にも利用されました。

ガッラ・プラキディア霊廟の大理石窓と壁画群 ©️ HIro-o
石を張った窓もあります。
5世紀半ばのイタリア・ラヴェンナで建てられた霊廟『ガッラ・プラキディア』の天井に穿たれた窓がそのひとつ。大理石を薄く削って張ったもので、美しい琥珀色と天然のマーブル模様に目を奪われます。
この小さな窓から差し込む外光は周囲の壁画をも照らし出し、室内は荘厳な雰囲気に。ガラスとは比較にならないほのかな光ではありますが、霊廟としてはむしろふさわしいかもしれません。
5世紀半ばのイタリア・ラヴェンナで建てられた霊廟『ガッラ・プラキディア』の天井に穿たれた窓がそのひとつ。大理石を薄く削って張ったもので、美しい琥珀色と天然のマーブル模様に目を奪われます。
この小さな窓から差し込む外光は周囲の壁画をも照らし出し、室内は荘厳な雰囲気に。ガラスとは比較にならないほのかな光ではありますが、霊廟としてはむしろふさわしいかもしれません。

大阪市立自然史博物館に展示されている窓貝 ©️ Daderot
近代に至っても、ガラス以外の素材を使った窓は存在しました。“貝殻の窓”をご紹介しましょう。
その名もズバリ『窓貝』という貝があります。
牡蠣の一種で、かつて数多く生息していたフィリピンの地域名から『カピス貝』の名でも知られています。この貝の白い殻は加工によって半透明になり、四角く細断して枠に張ると窓をつくることができました。
カピス貝はインドから中国南部、ボルネオ島、フィリピンの島々などアジアの海に広く分布しています。地元の人々は昔から住宅の窓で使っていました。日本と同じ引き戸タイプの窓も多かったようです。
しかしこの窓が広く普及するようになったのは、15~16世紀の大航海時代。スペイン人やポルトガル人による大規模な植民地政策が行われた時期でした。

カピス貝で作られた窓 ©️ Bagoto
当時のヨーロッパではガラスは依然として高価なものだったので、カピス貝の窓を見たポルトガルの航海者は驚き感動したといいます。彼らはそれぞれの入植先で、自分たちの暮らす邸宅や教会の窓にもカピス貝を採用していきました。
当時の代表的な植民貿易地だったインドのゴアやフィリピンのビガンでは今でも、コロニアル様式の住宅や古い教会建築などで立派な『カピスシェル・ウインドウ』を見ることができます。

フィリピンの伝統的な家『バハイ・クボ』では、カピス貝の引き戸が使われることも多かった ©️ SwarmCheng
カピス貝は今でも、主に照明器具や装飾などのインテリア分野で多く使われています。しかしその美しさから乱獲され、場所によっては絶滅が心配される状況も。地球環境に対して私たちが持たねばならない高い意識が、こんなところでも求められています。
“透明なものへの限りない憧れ”こそ、ガラス窓の発展を促す最大の推進力だったのでは…世界中にちらばる“ガラスのない窓の物語”は、そんなイメージを抱かせてくれますね。(了)
透明さへの限りない憧れ ガラスカーテンウォール建築
2025-06-03
[窓]
注目
上から下までガラス張りのビルを見かけることは珍しくありません。都会的で洗練された外観に加え、豊富な窓に囲まれて室内も明るく気持ちよさそう、と思わせますね。
建物の外皮をたくさんのガラスで覆う建築手法は『ガラスカーテンウォール』と呼ばれます。ビルの外側に“カーテンをひくようにガラスで壁をつくる”のです。
長い間、窓は枠にはまって壁に付いているものでした。しかし、透き通ったガラスの特質を活用して建物をより美しくデザインできたら… 人々のそんな想いが積み重なり、新たな技術や工夫が生み出されてきました。
建築デザインでは、やはり建物の顔であるファサード(正面)は重要です。やぼったい窓枠をやめ、すらりとおしゃれなガラスだけで透明感を演出したい! そこで出たのが「建物と窓を分けよう。ゴツい躯体からガラスを解放して、外側に立てて支えればいいじゃないか」というアイディアです。
その手法をいくつかご紹介しましょう。
②ガラス同士をボルトで留める
多くの方が一度は目にされたことがあるだろう、ガラスの隅に丸いポイントがついている方法です。
強化ガラスに直接穴を開けてボルトを通し、複数のガラスを組み合わせて大開口を構成します。低層の建物のほか高層のオフィスビルなどでも採用され、DPG(Dot Point Grazing)構法とも呼ばれます。
③シール接着でフレームレスに
はめこみやボルト留めではなく、シリコン系素材の強力なシーリング剤でガラスと支持材を接着します。
ガラスは前面に出して並べ、その裏側をカーテンウォールのフレームに接着して支えるのです。高いフレームレス性となめらかさが得られるこの方法はSSG(Structural Sealant Glazing)構法とも呼ばれ、世界的に広く用いられています。
ガラスカーテンウォール建築の脇を歩いていて「もし、今ここで地震が起きたら?」と不安になったことはありませんか。大きな揺れでたくさんのガラスが割れ落ちてきたら、本当に怖いですよね。
でも、大丈夫。ガラスカーテンウォールは実は地震に強い構法です。
地震で揺さぶられると、建物は上下左右に変形を強いられます。窓枠がついている壁も当然歪み、部分的に接触することでガラスは割れてしまうのです。
窓枠に納められた四角い窓が地震の力を受けてひし形などに変形する『層間変形(そうかんへんけい)』は、災害時の窓ガラス破壊のもっとも大きな原因です。
とくに高いビルは、地震時の揺れ幅が大きくて大変です。東日本大震災時、新宿の高層ビル群がゆらゆらと揺れているさまをテレビでご覧になった方も少なくないでしょう。
そんな中、一見脆く危なく見えるガラスカーテンウォールがなぜ、地震に強いのでしょうか。
建物と窓が一体化している従来の建物と違い、カーテンウォールのガラスは躯体から独立して外側に張りめぐらされています。もちろん部分的に躯体にくっついてはいますが、それ以外はほぼガラス同士の組み合わせが基本。建物躯体の揺れが伝わりにくいのです。
地震時のこの強さは、阪神淡路大震災や東日本大震災の被害調査でも検証されています。

久光製薬ミュージアム内部。建物を支える躯体の柱からガラスが独立している
ガラスカーテンウォール建築は、外部から見たファサードの魅力もさることながら、室内においても開放性やすぐれた採光性で貢献し、さらには周囲の風景を取り込んで内と外とをつなぎ、空間を拡張してくれます。
透明性に対する人間の限りない憧れが生み出したともいえるガラスカーテンウォール。美しく透き通るだけでなく、その先に見えるものまで私たちに与えてくれる、洗練された窓ガラスの姿のひとつといえるでしょう。(了)

窓外の庭の風景と室内の美術作品が融合する。久光製薬ミュージアム
宇宙エネルギーがやってくる? 我が家の窓でお気軽風水
2025-02-21
[窓]
家づくりやお部屋の模様替えを考えるとき、”風水”や“方位”が気になる方もおられるかもしれません。今回は風水と住まい、とくに窓との関係のお話です。
風水は古代中国で生まれて現代まで受け継がれる思想。占いなどと同一視されることも多く、ご利益や魔除け? 的なものと見られがちですが、もとは宇宙の起源への探究から始まっており、物理や数学の視点も含んでいます。
すべての基本は“エネルギーの流れ”で、これは“気”と言い換えることもできます。常に私たちのまわりにあり、勢いよく進んだりゆるやかに渦巻いたりしているというのです。
うねって流れるこのエネルギーを暮らしや仕事に活かして、より良い人生にしましょう! ざっくりいうと、風水とはこんなスタンス。
“バランスと調和”も重視されます。強すぎず弱すぎず、おだやかな流れこそがベストで、この状態をしつらえるさまざまな知恵が伝えられてきました。
風水師とはそんな知恵や工夫、技術を自在にあやつる人々です。陰陽や方位、八卦(はっけ)といった多くの複雑な要素も含む本格的な風水では、彼らの力が欠かせません。
その一方で、家具の配置など室内を少し変えてエネルギーの流れを整える、手軽な“おうち風水”のような試みもあります。
ここでは心身の健康や仕事など、私たちの日常に良く作用してくれそうな、おうちの窓の風水を、ほんの少しだけご紹介します。
いつもと違う目で住まいを観察し、軽い実験のような感覚でやってみる。いい感じなら成功、ちょっと違うかなと思ったら元に戻せばOK。絶対的な正解も間違いもないのが、風水のいいところでもあります。
窓はおうち風水の大きなポイントのひとつ。なぜなら、エネルギーは「窓やドアなどの開口部から室内を出入りして流れていく」といわれているからです。
この流れを“おだやかに浴びて受け取れる室内”が、良いおうち風水の基本と考えられます。
開口部の配置や数によって、エネルギーは流れ方を変えます。
窓とドアが正対していれば、強くまっすぐ流れるといわれます。けれどそれぞれの位置がずれていたり、数が違ったりといったさまざまな条件によって、曲がったりうねったり渦を巻いたりと、その姿を変化させて室内を通っていくのです。
この部屋はどうかな? 流れを読みときながら、家具の位置を少しだけ移動させたり、インテリアにちょっと新味を加えてみるのが、おうち風水の楽しいところ。
例えば窓とドアがふたつずつあるリビングで、家族がよく座っているソファは、どこにあるとよいのでしょうか。
通常、良いと考えられるのはAです。
左のドアから入るエネルギーは、うねりながら室内を流れて2枚の窓と右のドアから出ていきます。ソファはドアからも窓からも少しずれているのでおだやかに流れを受け取れそう。エネルギーのパワーを弱めるとされる観葉植物も効いています。
一方Bではドアの正面にソファがあり、入ってくるエネルギーの束に直接さらされるので、少しパワーが強すぎるかもしれません。
Cはソファの背後に窓があり、出て行こうとする強めのエネルギーが当たりやすそうです。
でも、うちのリビングにはテーブルもほかの椅子もキャビネットもあるから、家具はそう簡単に動かせないんだけど… そんな状況もきっとありますよね。
大丈夫、家具にさわらずに流れを変えるアイテムもあります。
ドアとソファの間にパーティションやついたてを置くことで、エネルギーの流れは変えられるとされています。またAにも見られるように観葉植物はエネルギーのパワーをおだやかにするといわれ、B-2ではこの手法を取り入れました。
また、C-2のように窓にカーテンをひけば、エネルギーが出入り口として見なさなくなり、右手のドアと窓をめざして流れていきます。
寝室の風水も考えてみましょう。
大切なのはベッドの配置です。ここではAがもっともおだやかにエネルギーを受け取れそう。
また、エネルギーの流れのほかに寝室で大切なのがベッドとドアの関係で、「横になったとき出入口が死角にならないこと」が安心・安全に眠るために不可欠とされています。
その観点で、Bを見てみましょう。
このベッドの配置では、寝ているときにもしも誰かがドアを開けても、その人が完全に室内に入るまで何者なのかわかりません。確かにちょっとこわい気もしますね。
さらにCのように、ドアを開けた瞬間丸見えになるベッドは、エネルギー・安心安全両面でNG。
改善には、例えば就寝時に窓にカーテンをひくほか、ドアとベッドの間にパーティションを置いてみてもいいかもしれません。


風水を試したら、その後の数週間で暮らしの中にどんな出来事や変化があるか注意するのがよい、といわれます。
人間関係が改善されたり、なんとなく体調が良いなど嬉しいことが増えれば、もしかするとそれは風水の恩恵かもしれません。
反対に仕事で思わぬ失敗をしたり、いつもより少し辛い出来事があったなら、家具を元に戻せばよいし、気が向いたら別のしつらえを試してみても。
当然ながら、気にしすぎる必要はありません。
住まいに限らず、普段と違った目線で何かを見ると、そこには必ず新しい発見があります。
いつも光や風を取り込んでくれる我が家の窓が、実は目に見えない宇宙エネルギーの出入り口になっていて、日々の暮らしにひそかに関わっていたりして…?
こんな、少し不思議でファンタジックなワクワク感こそ、おうちの窓風水の醍醐味ではないでしょうか。
参考文献:
ラム・カム・チュアン『風水 原理を生かす』産調出版
リリアン・トゥー『図説 風水大全』東洋書林
リチャード・クレイトモア『風水 気と古代風景学の秘密』創元社
なぜ透明で壊れやすいの? 秘密はガラスの“でき方”にあり
2024-11-20
[窓]
室内を気持ちよく過ごすために、窓は欠かせない存在です。
風や光の取り込みはもちろん、まわりの風景や丹精した庭、ご近所の街並みを窓越しに目にできることは、住まいの豊かさを左右する要素でしょう。そして、ガラスが透明だからこそ成り立つことでもあります。
“透明”は多くの建材の中でもアクリルなど一部を除いてガラスだけが持っている特長です。…それにしてもなぜ、ガラスだけが透明なのでしょうか?
一般的な窓ガラスの原料で、とくに割合が多いのが“二酸化ケイ素”です。身近な例では透き通った鉱物の代表選手・石英(せきえい)として知られ、これを細かい砂状にして石灰などを加え、熱でドロドロに溶かしてガラスへと成型するのです。
石英の持つ透明さ=ガラスの透明さといえます。が、実はほかにもうひとつ理由が。
それはガラスが、固体ではなく液体だからです。
ええっどういうこと?! ガラスって固いよね! おっしゃるとおり。正確には「物質としての構造が液体」なのです。
物がどのようにできあがっているか、分子レベルまでさかのぼった“組成構造”から見てみましょう。金属でも木材でも、多くはそれぞれの分子が規則正しく組み合わさって、網目のような構造になっています。
ところがガラスはこの網目が不規則なのです。原料に熱を加えて溶かした状態から冷やしていけば、固まってはくるのですが、水が凍るときのように融点以下まで冷やしても最後まで規則正しい網目になりません。
こんな感じで分子が不安定な組成のまま固まったものは『非晶質固体(アモルファス)』と呼ばれます。
この“カッチリ組み合わさっていない”ところが、透明さの秘密。
分子が結晶して緻密に並んでいる物質に光が差すと、しっかり組まれた表面に跳ね返されます。光が届かないと物は見えないので、視線が通らないのです。木材の柱やコンクリートの壁はこんな状態です。
一方ガラスは、結晶せずに分子がゆるーくつながっているから光が通り抜けやすい。こうして私たちの目には、窓のガラスを通して向こう側がよく見えるのです。
カッチリしてなくて透明…この状態は、ほかにも独特の性質をガラスに与えています。
色がつけやすいのもそのひとつ。
色は、光が物質に当たったときに反射された波長が、私たちに見せるものです。
カラフルな絵が壁にかかっていても、部屋の中が真っ暗では何も見えませんね。色を見る=光の波長を見ているといってもいいでしょう。この“反射する色”は物質ごとに違っています。
ガラスはもともと透明で光を通しやすく無色が基本なので、不純物が混じるとそれが反射する波長の色がよく見えます。
ガラス板やガラス棒の小口が緑色を帯びているのをよく見かけますね。これは主原料の二酸化ケイ素の中にたいてい混じっている“鉄”の成分が反射している光の波長です。
この性質を使えば、つけたい色を反射してくれる不純物だけガラスに加え、それ以外を取り除けば思った通りの色つきガラスがつくれます。
ガラスの組成構造がゆるいのもここでは有利。他の物質と比べて、より簡単にいろいろな不純物を入れ込みやすいのです。
透明さのほかにガラスの特質といえば、やはり壊れやすいことでしょう。
同じ力で投げた同じボールがぶつかるとき、木造やコンクリートの壁ならびくともしないかもしれませんが、窓ガラスはそうはいきません。相当の厚みがあっても、ヒビくらいは入ってしまうでしょう。
この“脆さ”は、ガラスの割れ方・壊れるときの性質に原因があります。
アルミなどの金属とガラスを同じ大きさ・厚みの板にして、上から押して力を加える実験をしてみます。
ガラスも金属も徐々にしなっていき、ある瞬間にガラスは割れます。一方、金属はしなり続け、力を加え終わった後は元に戻らず曲がったままの形になります。
この性質を、ガラスは脆性(ぜいせい)、金属の方は延性(えんせい)と呼びます。
ガラスには延性がないので、力がかかると「金属みたいにちょっと延びてやり過ごそう」という対策を取れません。だから限界がくると一気に割れてしまうのです。
とくに“引っ張られる力”に弱く、強く押されたり物がぶつかった面よりも、その反対側がまず壊れます。
こうなると金属はなんとなく「もっている」感じがしますよね。形が変わって元通りになれない状態を『降伏』といいますが、ガラスのように粉々にならないので強い印象を与えるのです。
なんとも分が悪いガラス。それでもなんとか強くして使いたい! と、昔から多くの人が考えさまざまな工夫がこらされてきました。
耐熱ガラス食器やコーヒーサーバーなどは代表選手のひとつですが、窓ガラス部門では学校の校舎や車のフロントガラスに使われている“強化ガラス”が思いつきます。
強化ガラスの製造では、溶けたガラスを板状に成型するときに冷たい空気を両面に吹き付け、すばやく冷やします。
ここで表面だけが一気に固まって縮み、“押される力”に対抗する力がつくられますが、内側は冷やし切らずに少し柔らかさを残すので“引っ張られる力”に対抗する力の方を多めに持ち続けたまま。
こうして表面と中身の相反する力を組み合わせて全体のバランスを取り、通常のガラスと比べて3倍から5倍もの強度に上げたものが、強化ガラスというわけです。
一見、他の材料よりもか弱く見えるけれど、その脆さあってこその透明な輝きや美しさを持つ…ガラスは独特な物質です。
紀元前の昔から現代まで人間はその存在に魅了され続け、装飾品や食器、教会のステンドグラス、そして住まいや建物の窓と、知恵を絞り技術を開発して、あらゆる場面で使ってきたのですね。(了)
参考文献
黒川高明『ガラスの技術史』アグネ技術センター
山根正之『はじめてガラスを作る人のために』内田老鶴圃
前田敬『ガラス 進化し続ける身近な素材』東京理科大学科学フォーラム2023
木下純『ガラスの豆知識』AGCガラスプラザウェブサイト ほか
熱い日差しは窓の外でシャットアウト! “外部遮蔽”で住まいを涼しく
2024-08-07
[窓]
酷暑が続く今年の夏。天気がよくても日中は出歩かず、なるべく家の中で暑さをやり過ごす時間が多いのではないでしょうか。
今回のコラムは少し趣向を変え、窓で暑さに対抗する実用的な知恵をご紹介しましょう。エアコンの上手な使用に加え、“窓の外での効果的な日射遮蔽”が、住まいの省エネと快適さに直結します。
窓リフォームはすぐにはできない ならば日差しを遮ろう
断熱性能を高めたLow-Eガラス(エコガラス)でリフォームし、窓そのものの遮熱力を上げるのは、今や涼しい家と省エネを実現する王道のひとつとなりました。
でも「すぐにリフォームは難しい、とりあえず目の前の暑さをなんとかしないと」 と、カーテンを引いたりホームセンターに走ってシェードやブラインドを手に入れる…そんな対処が、現実には多いのではないでしょうか。
家を暑くする元凶である太陽からの日射熱は、その約7割が窓ガラスを通って室内に入ってきます。エアコンをかけていても窓に日が当たると暑いのはそのせいで、窓辺で熱をしっかり遮ることが涼しさアップには効果的なのです。
ここでは窓そのものはいじらない、手軽・ローコスト・効果あり、の日射遮蔽術を紹介していきます。当然ながらエコガラス窓と組み合わせれば、効果はより一層上がります。
窓の内側と外側、どちらで遮蔽する?
窓辺で日差しを遮るツールは、大きく2種類に分かれます。スダレのように屋外につける方を“外付け組”、ブラインドなど室内で使う“内付け組”とすると、結論からいうと効果の上では“外付け組”に軍配が上がります。
なぜでしょうか?
ポイントは“窓自体を熱くしないこと”です。
じかに日差しが当たるとモノは温度が上がり、蓄熱して周囲にその熱を放射します。輻射(ふくしゃ)熱とも呼ばれる現象です。
内付け組の場合、まず窓ガラスが直射日光日射にさらされて熱くなり、蓄熱します。その輻射熱が今度はカーテンやブラインドに伝わって蓄熱。さらにその輻射熱が部屋の中へ広がる…という塩梅です。
何もしないよりもちろんいいのですが、建物の内と外の境になっているガラス自体が熱くなれば、こんな仕組みで内部は暑くなっていきます。
これを解決するのが外付け組=外部遮蔽です。やってくる日射を家の外で受けとめてブロックし、窓ガラスの温度を上げないバリヤーとして働いてくれます。
スダレや緑のカーテン、おしゃれなオーニングなど、外付け組にはさまざまなアイテムがあります。それぞれの持っている特徴を見てみましょう。
外付け組=外部遮蔽は緑のカーテンがベスト
①オーニング
昨今、ベランダにオーニングやシェードをつけている住宅が増えました。「洋風の家だからスダレはちょっと…」との住まい手の思いもうかがえるよう。
オーニングは豊富なデザインに加え、UVカットなど機能性を高めたものもあり、留め付け方もいろいろで自宅に合わせて選べます。しゃれた屋外空間の演出にも重宝する存在です。
気をつけたいのは、まず蓄熱性。最初に直射日光を受けるのでやはり温度は上がり、輻射熱は窓に至るまでの空間に伝わります。デッキやベランダは窓ガラス~室内までのバッファゾーンと考えてよいかもしれません。
カラーリングで効果が異なる面もあります。こげ茶など濃い色の方がしっかり遮熱してくれますが、室内は暗めになるので、選ぶ際には他の窓や照明など採光面の要素も考え合わせて。
②スダレ・ヨシズ
夏のホームセンター入口に必ず並ぶ、昔ながらの実力派。ヨシや竹など中に空洞のある自然素材の利用が、その効果を担っています。
オーニング同様に直接日射を受けて蓄熱もしますが、空洞の中にある空気が断熱材として働き、裏側の温度は表より低くなります。窓ガラスに伝わる輻射熱も、ここで低減されるのです。
主な材料であるヨシが水生植物であることも強みのひとつ。水をかけても問題ないので、濡らしてやれば気化熱で冷えて蓄熱が減らせます。昔の人の知恵恐るべし、といったところでしょうか。
一方、デザイン的にやはり和風味の強さ? が、現代住宅に取り入れるにはハードルになるかもしれません。風にあおられたり劣化などで、他に比べてこわれやすい点もあります。
③緑のカーテン
学者も認める、現代の外部遮蔽の雄です。
ゴーヤやアサガオなどつる性の植物を窓辺で育ててネットに誘引し、重なり合う葉で窓への直射日光を遮る、見た目にも涼しい工夫です。
日本大学生物資源科学部が行った、窓ガラスへの直射日光をどれだけ遮れるかをヨシズ・寒冷紗(かんれいしゃ)*と比較した実験があります。ここでもゴーヤを使った緑のカーテンがトップの成績をおさめた結果が出ました。
違いは“生きている葉っぱ”にあります。
植物には主に葉の裏に気孔と呼ばれる穴があり、そこから水分を蒸発させて自らの体を冷やしながら、土壌から水を吸い上げる性質があります。
“蒸散”と呼ばれるこの現象によって、強い日射が当たっても葉っぱは蓄熱せず、オーニングのように極端に熱くなりません。周囲に輻射熱を振りまかず、ひたすら日差しだけを遮り続けてくれるのです。
この現象は、公園や街なかでも体験できます。庇や建物の陰よりも公園の木々や街路樹がつくる木陰の方がなんとなく涼しい、と感じたことはありませんか? それは決して気分的なものだけではないのです。
泣きどころは、やはりある程度の時間と手間がかかること。種をまいて一週間後には豊かな葉陰…とはいきません。
初夏に苗を植え、水をやり、実がなることも期待して、楽しみながら育てていきたいものです。
それぞれ一長一短ある外部遮蔽ですが、窓の外側で工夫して直射日光を当てないという基本は同じ。
ご自宅の事情に合わせ、窓辺に合わせて新たな庭木を選びにいくのもよし、家族みんなで独自の遮蔽ツールを考えてDIYでつくってみるのも、夏休みの思い出となるかもしれません。(了)
*寒冷紗:化学繊維や麻などで荒く織られた布で、農作物を覆うことで強い日差しを遮ったり、冬の保温や霜よけなどに利用する。近年では住宅のベランダや庭で、日よけ用に張られることも増えてきた。
































