二階さちえの「窓のコラム」

なぜ透明で壊れやすいの? 秘密はガラスの“でき方”にあり

2024-11-20
[窓]
   室内を気持ちよく過ごすために、窓は欠かせない存在です。
 風や光の取り込みはもちろん、まわりの風景や丹精した庭、ご近所の街並みを窓越しに目にできることは、住まいの豊かさを左右する要素でしょう。そして、ガラスが透明だからこそ成り立つことでもあります。
 
 “透明”は多くの建材の中でもアクリルなど一部を除いてガラスだけが持っている特長です。…それにしてもなぜ、ガラスだけが透明なのでしょうか?
 
 一般的な窓ガラスの原料で、とくに割合が多いのが“二酸化ケイ素”です。身近な例では透き通った鉱物の代表選手・石英(せきえい)として知られ、これを細かい砂状にして石灰などを加え、熱でドロドロに溶かしてガラスへと成型するのです。
 
 石英の持つ透明さ=ガラスの透明さといえます。が、実はほかにもうひとつ理由が。
 
それはガラスが、固体ではなく液体だからです。
 
ええっどういうこと?! ガラスって固いよね! おっしゃるとおり。正確には「物質としての構造が液体」なのです。
 
 物がどのようにできあがっているか、分子レベルまでさかのぼった“組成構造”から見てみましょう。金属でも木材でも、多くはそれぞれの分子が規則正しく組み合わさって、網目のような構造になっています。
 
 ところがガラスはこの網目が不規則なのです。原料に熱を加えて溶かした状態から冷やしていけば、固まってはくるのですが、水が凍るときのように融点以下まで冷やしても最後まで規則正しい網目になりません。
 
 こんな感じで分子が不安定な組成のまま固まったものは『非晶質固体(アモルファス)』と呼ばれます。
 
 この“カッチリ組み合わさっていない”ところが、透明さの秘密。
 
 分子が結晶して緻密に並んでいる物質に光が差すと、しっかり組まれた表面に跳ね返されます。光が届かないと物は見えないので、視線が通らないのです。木材の柱やコンクリートの壁はこんな状態です。
 
 一方ガラスは、結晶せずに分子がゆるーくつながっているから光が通り抜けやすい。こうして私たちの目には、窓のガラスを通して向こう側がよく見えるのです。
 
こんなに違う! ガラスと他の物質の組成
ガラスのマウスパッドの小口も緑色
 カッチリしてなくて透明…この状態は、ほかにも独特の性質をガラスに与えています。
 
 色がつけやすいのもそのひとつ。
 
 色は、光が物質に当たったときに反射された波長が、私たちに見せるものです。
 カラフルな絵が壁にかかっていても、部屋の中が真っ暗では何も見えませんね。色を見る=光の波長を見ているといってもいいでしょう。この“反射する色”は物質ごとに違っています。
 
ガラスはもともと透明で光を通しやすく無色が基本なので、不純物が混じるとそれが反射する波長の色がよく見えます。
 ガラス板やガラス棒の小口が緑色を帯びているのをよく見かけますね。これは主原料の二酸化ケイ素の中にたいてい混じっている“鉄”の成分が反射している光の波長です。
 
この性質を使えば、つけたい色を反射してくれる不純物だけガラスに加え、それ以外を取り除けば思った通りの色つきガラスがつくれます。
ガラスの組成構造がゆるいのもここでは有利。他の物質と比べて、より簡単にいろいろな不純物を入れ込みやすいのです。
さまざまな金属材料が不純物としてはたらき、色ガラスをつくりだす


透明さのほかにガラスの特質といえば、やはり壊れやすいことでしょう。
 同じ力で投げた同じボールがぶつかるとき、木造やコンクリートの壁ならびくともしないかもしれませんが、窓ガラスはそうはいきません。相当の厚みがあっても、ヒビくらいは入ってしまうでしょう。
 
 この“脆さ”は、ガラスの割れ方・壊れるときの性質に原因があります。
 
 アルミなどの金属とガラスを同じ大きさ・厚みの板にして、上から押して力を加える実験をしてみます。
 ガラスも金属も徐々にしなっていき、ある瞬間にガラスは割れます。一方、金属はしなり続け、力を加え終わった後は元に戻らず曲がったままの形になります。
 
 この性質を、ガラスは脆性(ぜいせい)、金属の方は延性(えんせい)と呼びます。
 
 ガラスには延性がないので、力がかかると「金属みたいにちょっと延びてやり過ごそう」という対策を取れません。だから限界がくると一気に割れてしまうのです。
 とくに“引っ張られる力”に弱く、強く押されたり物がぶつかった面よりも、その反対側がまず壊れます。
ガラスはこうして割れ、壊れる
商業ビルの色ガラスがまちを彩る
こうなると金属はなんとなく「もっている」感じがしますよね。形が変わって元通りになれない状態を『降伏』といいますが、ガラスのように粉々にならないので強い印象を与えるのです。
 
 なんとも分が悪いガラス。それでもなんとか強くして使いたい!  と、昔から多くの人が考えさまざまな工夫がこらされてきました。
 耐熱ガラス食器やコーヒーサーバーなどは代表選手のひとつですが、窓ガラス部門では学校の校舎や車のフロントガラスに使われている“強化ガラス”が思いつきます。
 
 強化ガラスの製造では、溶けたガラスを板状に成型するときに冷たい空気を両面に吹き付け、すばやく冷やします。
 ここで表面だけが一気に固まって縮み、“押される力”に対抗する力がつくられますが、内側は冷やし切らずに少し柔らかさを残すので“引っ張られる力”に対抗する力の方を多めに持ち続けたまま。
 こうして表面と中身の相反する力を組み合わせて全体のバランスを取り、通常のガラスと比べて3倍から5倍もの強度に上げたものが、強化ガラスというわけです。
 
 
 一見、他の材料よりもか弱く見えるけれど、その脆さあってこその透明な輝きや美しさを持つ…ガラスは独特な物質です。
 紀元前の昔から現代まで人間はその存在に魅了され続け、装飾品や食器、教会のステンドグラス、そして住まいや建物の窓と、知恵を絞り技術を開発して、あらゆる場面で使ってきたのですね。(了)
 



参考文献
黒川高明『ガラスの技術史』アグネ技術センター
山根正之『はじめてガラスを作る人のために』内田老鶴圃
前田敬『ガラス 進化し続ける身近な素材』東京理科大学科学フォーラム2023
木下純『ガラスの豆知識』AGCガラスプラザウェブサイト ほか
株式会社クリア
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