透明さへの限りない憧れ ガラスカーテンウォール建築
2025-06-03
[窓]
注目
上から下までガラス張りのビルを見かけることは珍しくありません。都会的で洗練された外観に加え、豊富な窓に囲まれて室内も明るく気持ちよさそう、と思わせますね。
建物の外皮をたくさんのガラスで覆う建築手法は『ガラスカーテンウォール』と呼ばれます。ビルの外側に“カーテンをひくようにガラスで壁をつくる”のです。
長い間、窓は枠にはまって壁に付いているものでした。しかし、透き通ったガラスの特質を活用して建物をより美しくデザインできたら… 人々のそんな想いが積み重なり、新たな技術や工夫が生み出されてきました。
建築デザインでは、やはり建物の顔であるファサード(正面)は重要です。やぼったい窓枠をやめ、すらりとおしゃれなガラスだけで透明感を演出したい! そこで出たのが「建物と窓を分けよう。ゴツい躯体からガラスを解放して、外側に立てて支えればいいじゃないか」というアイディアです。
その手法をいくつかご紹介しましょう。
②ガラス同士をボルトで留める
多くの方が一度は目にされたことがあるだろう、ガラスの隅に丸いポイントがついている方法です。
強化ガラスに直接穴を開けてボルトを通し、複数のガラスを組み合わせて大開口を構成します。低層の建物のほか高層のオフィスビルなどでも採用され、DPG(Dot Point Grazing)構法とも呼ばれます。
③シール接着でフレームレスに
はめこみやボルト留めではなく、シリコン系素材の強力なシーリング剤でガラスと支持材を接着します。
ガラスは前面に出して並べ、その裏側をカーテンウォールのフレームに接着して支えるのです。高いフレームレス性となめらかさが得られるこの方法はSSG(Structural Sealant Glazing)構法とも呼ばれ、世界的に広く用いられています。
ガラスカーテンウォール建築の脇を歩いていて「もし、今ここで地震が起きたら?」と不安になったことはありませんか。大きな揺れでたくさんのガラスが割れ落ちてきたら、本当に怖いですよね。
でも、大丈夫。ガラスカーテンウォールは実は地震に強い構法です。
地震で揺さぶられると、建物は上下左右に変形を強いられます。窓枠がついている壁も当然歪み、部分的に接触することでガラスは割れてしまうのです。
窓枠に納められた四角い窓が地震の力を受けてひし形などに変形する『層間変形(そうかんへんけい)』は、災害時の窓ガラス破壊のもっとも大きな原因です。
とくに高いビルは、地震時の揺れ幅が大きくて大変です。東日本大震災時、新宿の高層ビル群がゆらゆらと揺れているさまをテレビでご覧になった方も少なくないでしょう。
そんな中、一見脆く危なく見えるガラスカーテンウォールがなぜ、地震に強いのでしょうか。
建物と窓が一体化している従来の建物と違い、カーテンウォールのガラスは躯体から独立して外側に張りめぐらされています。もちろん部分的に躯体にくっついてはいますが、それ以外はほぼガラス同士の組み合わせが基本。建物躯体の揺れが伝わりにくいのです。
地震時のこの強さは、阪神淡路大震災や東日本大震災の被害調査でも検証されています。

久光製薬ミュージアム内部。建物を支える躯体の柱からガラスが独立している
ガラスカーテンウォール建築は、外部から見たファサードの魅力もさることながら、室内においても開放性やすぐれた採光性で貢献し、さらには周囲の風景を取り込んで内と外とをつなぎ、空間を拡張してくれます。
透明性に対する人間の限りない憧れが生み出したともいえるガラスカーテンウォール。美しく透き通るだけでなく、その先に見えるものまで私たちに与えてくれる、洗練された窓ガラスの姿のひとつといえるでしょう。(了)

窓外の庭の風景と室内の美術作品が融合する。久光製薬ミュージアム























