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二階さちえの「窓のコラム」

ガラスと光で心豊かに 意外と身近なステンドグラス

2023-12-14
カテゴリ:窓
 天の光を教会の内へ… ステンドグラスのはじまり


クリスマスが近づくこの時期、街はイルミネーションも増えてはなやいだ雰囲気に。色とりどりの光は人の心を惹きつけ、ワクワクさせる効果があるようです。
 
 色と光が美しく競演している窓もあります。そう、ステンドグラス。
 6世紀から8世紀頃、色をつけたガラスを鉛の枠線にはめ込み、組み合わせて成形した開口がそのルーツといわれています(諸説あり)。
 
 その後、紋様・人物・物語・風景などを描き出す“絵画のような窓”として作られはじめたのは、中世ヨーロッパの修道院や教会堂においてでした。
 
 当時の教会建築は、重いアーチ天井を太い石の柱や厚い壁で支えるどっしりとしたつくりが中心。構造上の弱点となる窓は必要最低限に小さく穿たれ、人々はわずかに差し込む光の下でつつましく祈っていたのです。
 
 貴重な自然光を可能な限り内部に取り込み、同時に信仰のよりどころとなる劇的体験の源にできたら… そんな宗教者たちの思いこそがステンドグラスを誕生させたのかもしれません。
 
 ひとつの完成形にのぼりつめたのは13世紀ゴシック時代、フランスやイギリスなどヨーロッパ諸国で次々に建設される大聖堂を飾るため、多くのガラス職人が自らの意匠や技術を高めて製作に励みました。
 ゴシック教会のステンドグラスと聞いてわたしたちが通常イメージする、床から天井まで伸び上がって林立する細長い窓や、薔薇窓とも呼ばれる巨大な円形のステンドグラスのスタイルは、この時代に確立し隆盛を極めたのです。
 
 ここには、建築技術の進化が大きな要因として作用しています。
 
 それまで一般的だった半円型天井が、先の尖った“尖頭(せんとう)アーチ”でつくることで軽くなり、ぶ厚い壁や太い柱が不要になりました。
 窓は大きく取れるようになり、高くそびえて極彩色に輝くステンドグラスは見る者に神の国=天への憧れや宇宙さえもイメージさせます。室内はドラマチックな光にあふれ、教会全体が非日常の神聖な空間へと昇華していったのでした。
 
 
個人の住まいにも取り入れられるようになった
その後のバロック時代から近世を経て現代まで、一時衰退の危機があったものの、ステンドグラスはその技法や絵柄を変化・進化させながら今や日本の住宅や公共施設、まちなかでも見かけるようになりました。
 
鮮やかな色ガラスの芸術は宗教を超え、社会全体に彩りを与える存在となったのです。
 
明るく楽しくお買い物! アーケード街のステンドグラス


伝統的なステンドグラスでは人物や紋様のほか、聖書の一場面などもモチーフとして多く取り上げられてきました。かつては字が読めない人々に聖書の内容を伝える“紙芝居”的役割を担っていたこともあります。
 
 しかし一般的な絵画とは違う点もあります。光が表現に大きな影響を与えるのです。
 
 晴天か曇りか、雨でも見え方は変わり、白っぽいガラスの周囲では他のガラスの色が鈍ったり、隣り合うガラスの色が光によって混ぜ合わされ別の色合いが生まれることもあります。
 ガラスという稀有な素材の面目躍如であるとともに、降りそそぐ太陽光の恵みで明るさを享受し、外界を感じてつながる窓の機能性がそこに並列しているのも、興味深いところでしょう。
 
 都心の商店街でそんなステンドグラスに出会いました。 
銀柳街のエントランスを飾る本格的なステンドグラスアーチ
教会の身廊のような天窓群
銀柳街(ぎんりゅうがい)は川崎駅の目の前を走る長さ約250mのアーケード街です。
「花とステンドグラスのある街」と書かれ、大きなステンドグラスで飾られたアーチをくぐると、天井には天窓がずらり。頭上に突然広がる(商店街自体はいたって普通)ヨーロッパの教会? 風の雰囲気に驚きました。
ピカソのゲルニカを彷彿させる作品も
採光を考慮してか多くは唐草模様の枠と透明ガラスの天窓ですが、ところどころに花をモチーフにしたカラフルなステンドグラスも。中央にはシンボリックな大型の作品が配置されています。
 
 戦前から現在まで、銀柳街は川崎を代表する商店街として人々の暮らしを支えてきました。1960年代にアーケード化され、78年の改装時にはさらに明るさと楽しさを加えようと、強化プラスチック製ステンドグラスの天窓がつけられたといいます。
 さらに90年代にはまちづくりの一環としてさらに魅力を高めるべく、天窓を本物のガラスへと入れ替え、作家による本格的なステンドグラス作品の採用に踏み切ったのです。

昼間は照明不要の天窓つきアーケードは省エネ面でもすぐれている
雨の多いこの国で、天候に関係なく買い物が楽しめるアーケード街は確かにありがたい存在でしょう。けれど頭上を覆うその天井を見上げた時、日差しを通して色鮮やかに輝くステンドグラスが並んでいたとしたら… 小さな窓しかなかった中世の教会とは違えど、多くの人が心楽しく、豊かな気分になるのではないでしょうか。
 
 最新のLED照明ではなしえない何かが、そこには確かにありそうです。
 
大きなランプからイヤリングまで、仕事机に並ぶ小林さんの作品
窓以外にもステンドグラスの活躍の場があります。それは“あかり”の世界。
 
 揺らぎが心を癒す ステンドグラスランプのぬくもり

『ティファニーランプ』をご存知の方も多いでしょう。トンボや植物などアール・ヌーヴォーのモチーフを繊細に表現し、一世を風靡したステンドグラスランプの別名です。
 かのラグジュアリーブランド・ティファニー創始者の子息であり、ガラス工芸家のルイス・コンフォート・ティファニーが最初に作ったことで、この呼び名がつきました。
 
 太陽光と電球の違いはあれ、光の透過を前提に銅線の枠にはめこんだ色ガラスで輝きをデザインしていく点は窓と共通しています。
 ランプを中心にトレーやアクセサリー、花瓶、什器なども手がけるステンドグラス作家・小林亜希子さんに、ステンドグラスの魅力やその理由についてうかがいました。
少しだけティファニー風? を思わせつつ、昭和レトロガラス&モノトーンを生かしたオリジナルデザインランプ
「ステンドグラスには“色の相乗効果”があるのではと思っています。隣り合う色がパッチワークのようにそれぞれ違い、相互に影響し合っている。光源や背景、季節や見るシーンも関わってきます。そこに“揺らぎ”が生まれ、見る人は癒されるのではないでしょうか」
「たとえば緑の中を歩くとき、光の当たり方によっていろいろな色に見えますね。それと同じようなものかもしれません」
 
 隣り合うガラスの色を光が混ぜ合わせ、違った色彩が見えてくる…教会のステンドグラスと同じことがランプでも起こるというのです。ステンドグラスのひとつの本質に触れた気がしました。
 大聖堂で見上げるバラ窓と自室で静かに見つめるあかり。どちらも人の心に沁みとおり、安らぎや純粋な想いへと導く不思議な力を秘めているようです。
 
 
昭和レトロガラスのペンダントランプが柔らかな光に輝く。手前は『ツバメ』、奥は『ダイヤ』の昭和レトロガラスを使用
ここ数年、小林さんは色ガラスではなく『昭和レトロガラス』を再利用した透明ステンドグラス作品をより多く製作しているといいます。
 昭和レトロガラスとは高度成長期に日本中の窓を飾ったデザインガラス群の愛称。植物や星空、幾何学模様、まちの風景に至るまで多彩なモチーフが特徴で、独特の温かみがあり「おばあちゃんちで見たことがある」的なつかしさとレトロ感で静かなブームが続いています。
 
 小林さんのもとには、解体される家の窓からレスキューされたガラスが持ち込まれたり、SNSで作品を見た人から依頼されて引き取りに行ったりと、全国から昭和レトロガラスが集まります。そのどれもに「思い出がある」と小林さん。
 
 「(我が家の解体時に)本来なら捨てられてしまうものをもらってくれてありがとう、と涙ながらに話してくださる方もいます。通常のステンドグラス用色ガラスには、ないことですよね」
 
 時間を経たものが持つ骨董品にも似た魅力を生かしたい。そんな想いを込めた小林さんの作品は、オリジナルの昭和レトロガラスの味わいそのままにモノトーンで構成されています。
 色ガラスよりおとなしい印象ですが、光を通すと見知らぬ誰かの思い出が香るように、ふわりと柔らかなぬくもりがひろがりました。単なるリユースを超え、新たな価値がここでは生み出されています。



 
固く透き通った素材でありながら、さまざまな色をまとって組み合わさったり、なつかしいデザインをもっていたり、そんなガラスたちが光を通して人の心を暖める存在になる。教会に足を運ばずとも、案外身近なところにステンドグラスはあります。冬のひと日、木枯らしの合間を縫って探しにいってみませんか。


取材協力:stained glass moineau 小林亜希子
株式会社クリア
〒400-0867
山梨県甲府市青沼2丁目23-14
TEL.055-226-8887
FAX.055-298-6762
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