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二階さちえの「窓のコラム」

見て見られて、ワクワク。ガラス窓越しの視線コミュニケーション

2022-04-12
カテゴリ:窓
ガラス窓の特長といえば、透明で向こう側が見えること。あたりまえですが、建築を作り上げる材料としてはアクリルなど一部を除くとほかに見当たらない独特の性質です。
 
 人間は情報の8割を視覚から得ているとの説もあるように、私たちにとって“見る、見える”はやはり重要。建築においてその機能を任されているのが窓というわけです。
 壁や屋根のように雨や風は防ぎつつ、光と視線は通す。建築設計者も「内と外をつないで関係を作る」「人の意識に働きかける」など、他の建材とは少し異なるものとして窓をとらえる人が少なくありません。

ガラス窓越しの茶庭のしつらいが和室と一体化し昇華している。建築の内と外を美しくつなげる窓の設計
Low-Eガラスのミラー効果の例。自然光のある日中に顕著に見られる。ガラス面に外の風景が映り込んで内部は見えず、窓のないブラインド越しには打ち合わせをする人の姿がわずかにわかる
窓を通る視線はたいてい、内から外に向かう方向で考えられます。室内からはよく見えるように、外の視線は遮るように。こと住宅においては基本中の基本でしょう。
 見たいけど見せたくない。この矛盾を解決すべく、御簾やレースカーテン、現代では複層ガラスの内部に張った金属膜の効果で外側が鏡のように反射(ミラー効果)するLow-Eガラスなども登場し“内から見えて外から見えない”窓辺がつくられてきました。
 
 一方、お店のショーウインドーなどは見せることを至上命題にしています。
 が、これは商品に興味を持ってほしい、あわよくば買ってもらいたいという明確な目的があるいわば“展示スペース”。ケーキをつくったり煎餅を焼く姿を見せるガラス窓(箱?)越しの演出も同様です。主役はモノで、内にいる人ではありません。
 
けれど時折「さあ見てください。中にどんな人がいて何をしているのかを」と呼びかけてくる窓に出合います。(株)ZOZO本社社屋の窓も、そのひとつです。
 
 国内ネット販売事業の先鞭をつけ、現在もファッション系通販サイト運営等のトップランナーに数えられるZOZOは2020年、建物の正面が床から天井まですべてガラス窓の本社社屋を千葉市内に建てました。
 デスクや会議スペース、書棚、働いているスタッフの姿まで丸見えで、前を通るのが一瞬はばかられるほどです。ガラスはLow-Eガラスで、昼間はある程度反射するものの、日没以降は外の歩道とオフィスがそのままつながっているかのよう。その風景に驚きます。

千葉大学にほど近い文教地区・西千葉エリアに建つZOZO本社社屋。柔らかな曲線を描く大屋根の下、道路側一面のガラス窓とその向こうのオフィス空間に目を奪われる
オフィスビルでは社内秘事項の保持やセキュリティ面などから、執務スペースは見せないのが一般的です。しかしZOZOは「社員が楽しく働く姿を見てもらうと同時に、街を歩く人々の日常をスタッフが目にすることでインスピレーションや新しいコミュニケーションを生み出したい」という考えの下、開放的なガラス窓を設計のカナメとしました。
 地域密着型企業という在り方の選択と、イマジネーションや創造性を重視するファッション企業ならではのスタンスとが導き出した建築は、2021年度千葉県建築文化賞の最優秀賞にも輝いています。
 
 実際に社内で働く複数の女性スタッフに話を聞きました。「街の方々に会社を見てもらいたいし、私たちも街を見たいんですよ」と、透け透け? の職場環境に臆するどころか、楽しんでいるようです。
 誰かの視線を感じると人の背筋は伸び、モチベーションが上がる作用も現れます。さらにファッション関連企業であれば、街ゆく人々の装いや所作、暮らし方を日々仕事場から目にできるのは貴重な機会以外の何物でもないでしょう。
 
 街とそこに住む人々にとっても、ガラス越しに目に入るしゃれたインテリアと最新コーデに身を包んで働くスタッフの姿は刺激的。前を通って感じる一瞬の非日常が、気分を楽しくしてくれることもあるに違いありません。
ガラスを介した内と外のつながりは、日没以降に本領を発揮し始める。家路を急ぐ人々もみな視線を投げかけていく
見て見られて、シャキッとしたりワクワクしたり、視線のコミュニケーションは小さく偶発的ながらときに豊かな心持ちを与えてくれる。そんな一瞬を演出する素敵な窓に、出会いたい春です。
株式会社クリア
〒400-0867
山梨県甲府市青沼2丁目23-14
TEL.055-226-8887
FAX.055-298-6762
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